新作のRPGとまでは言わないが、もうちょっと違うものを期待していた。
オセロなんてTVゲームじゃなくても出来るでは無いか。くそう、この300歳。いや、いっそオセロでも良い。今度リオ相手にやろう。
そうだ。『ソルジャーに早くならないと』、とそればかりが、ここ数ヶ月頭の中に埋め尽くされていてすっかり忘れていたが、ジョミーはシャングリラに来てから全然遊びと言うものをしてなかった。せいぜい子供達相手にボールを投げあったり縄跳びに付き合ったり、その位だ。それでも随分気は紛れて楽しかったが、自分の為の自由な時間。プライベートという物が全く消えていた。唯一あるとすれば、この青の間でのブルーとの会話が、それかもしれない。
オセロがどうのと言うより、そんな事も忘れていた自分に気付かせてくれたブルーがありがたかった。
「あ・・・・ありがとうブルー。なんか嬉しいよ」
オセロかよ?!と、最初、ガッカリした事をもう何処かに放り投げてジョミーは言う。
「僕が昔作ったものなんだけどね」
「え?!ブルーお手製!」
「うん。そう」
ゲームまで作るのか・・・と思ったが、それもそうだ。この船の航行システムのプログラムやら何から何まで、皆お手製なのだ。こんなゲームぐらい寝てても出来そうだ。
「やるかい?」
「え?ブルーと?」
「・・・・・・・・僕はもう、散々やったからね」
そう言ってブルーは何故か少し目を伏せた。
「次は君にと思って。自動対戦モードがあるよ」
「自分がやる為に作ったの?」
「まあ、そうかな。煮詰まった時なんかは、こう言った単純明快なルールが気楽で落ち着く。でも、あんまりやり過ぎない様に。ハーレイが怒るよ」
「怒られるほど延々やってたの?ブルーが?」
「こう・・・気が付いたら延々、ぼー・・・と」
「何それ!。仕事は?」
「してるわけ無いだろう。サボってるんだから」
「ソルジャーがサボってて大丈夫なの?」
ちょっと可笑しくなって、ジョミーは笑いながら聞いた。
「我等ミュウに与えられた時間は膨大で、とても長丁場だ。如何に精神を健全に保つかが何よりも優先されなければならない。不満が募ってぶち切れ無意味に暴れ回るタイプ・ブルーなんて、人類でなくても排除したくもなるだろう」
すました顔でブルーはそう言った。
成る程。これはソルジャー専用の気晴らしグッズという訳だ。それを僕に譲ると、そういう事か、とジョミーは納得した。これは本当にありがたいかも。
「では早速、第一戦。言っておくけど、強いよ」
そう言ってブルーはゲームを起動した。
「あ。言っとくけど僕だって、あんまりオセロで負けた事ないんだよ」
ジョミーの負けん気が、そう言わせた。
「では、お手並み拝見といこうか」
何時もは可愛い顔のブルーが、不敵な表情に変わる。こういう時、自分は今まで何を見てたのだろう?と不思議な気分にジョミーはなるのだ。どちらもブルーなのだが、人が違った様に印象が変わる。そんなブルーを実はカッコいいとか思っていた。
そして、それから11分53秒後。
コンピューターを相手に見事に惨敗してるジョミーが居た。
「約12分か・・・。結構もったな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
顔を伏せ、項垂れるしかないジョミー。
因みに、最後まで終ってはいない。途中で全てのコマをひっくり返されたのだ。こんな負け方をしたのは初めてだ。
「な・・・・・何なのコレ・・・・・・・・・・・・・・」
「オセロだ」
「・・・・・・・・そう・・・だけどおおぉぉ~~・・・・・・・」
ジョミーはこれまでだってコンピューター対戦でオセロをやった事が無い訳ではなかった。何度かした覚えがある。しかし、果たしてこんなんだっただろーか・・・???と、物凄く疑問だ。
「言ったろう。僕が作ったんだ」
何なんだ。その自信満々の顔は。オセロなんて単純なルールのゲームのプログラムなんて誰が作っても同じ様なものだと、単純にジョミーは思っていたのだが、どうもそういう物では無かった様だ。
オセロぐらい、と気軽に挑んだら、何てザマだろう。
「こ・・・・こんな意地の悪いプログラムが、存在するなんて・・・」
「失敬な。単に強さを追求したらこうなったんだ。意地とか性格の要素なんて入ってない」
本当にそうなんだろうか・・・?とブルーの顔を見ていると甚だ疑問だ。絶対性格が滲み出てるとしか思えない。
取りあえず、人間の打ち方とはまるで違った。
別にオセロに精通してる訳でもないし、そこそこ本格的にやってる人と対戦した事も無いので、本当の所は分からないが、とにかく自分の知る範囲では、こんな打ち方は初めて見た。それは直ぐに分かったのだが、対応し切れないまま完膚なきまでに負かされた。
怒涛の勢いで負けたが一つ分かった事がある。これは言ってみれば殲滅戦だ。
ジョミーが知っている範囲でのオセロと言えば、終盤に備えて、ゲーム中盤辺りまでは押さえ気味にプレイしたり、自コマも出来れば少な目に押さえ手数を増やし、最終局面で有利に運ぶ為にも間に敵コマを割り込ませない。それが出来ない場合は相手が動き回れない様に自コマを差し込み妨害する。とにかく終盤に向けて自分に有利な場を幾つ用意できるかが肝心だ。逃げ道を確保し相手を追い込む。ゲーム前半は最終場に向けての準備に費やされる。相手のコマを取ると言うより、どこにコマを置けるか、それが重要だ。勿論、角四つの扱いなど実に最低限の基本などなど、後、幾つか気を使うポイントがある訳だが、まあ、自分の少ない経験則だとこんな所か。
後は、その場その場のノリだ。
しかしブルーのこのプログラムはそんな、ちゃっちい小細工など物の見事に全部スルーしてくれた。
「じゃあ、今のを踏まえて、もう一戦やっとくかい?。直ぐ終っちゃったしね」
にこっと楽しそうにブルーは再びゲームを起動した。
僕、やるなんて言ってません。ジョミーは、何か何時ぞやも心の中で呟いた科白を、再び心の中で呟いた。
--続く--

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