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2024/09/21/ [Sat]
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テキストの続きです。
第六話。
 




7日目。
8戦目。今日もブルーの頭を膝に乗せながらジョミーは機械相手にたった一人の孤独な戦いを繰り返している。
こうなって来ると、ふわっふわの頭だけが唯一の慰めだ。だが、その慰めが物凄くデカイ。デカイが、楽しむ余裕が無い。これはこれで生殺しだ。とにかく目の前の敵を倒さねば。もう何度目になるのかも分からない決意を繰り返す。

もうそろそろ、この殲滅戦のやり方にも慣れてきた。
機械は正確だ。合理的で不条理な事などしない。放っておけば、狙う先を確実に打ち込んでくるのだろう。もし、ダーク・ブルーに付け入る隙があるのだとすれば、そこなのかもしれない。

だが、精神的な消耗が結構キツイ。不毛過ぎるのだ。単純に唯ひたすら相手を叩き潰すだけの行為とは、なんと虚しいものなのか。そして、勝利を得るには相手を全滅させるしかない等と。しかしどんなにジョミーの気が萎えようが、ダーク・ブルーは変わらない。

(機械か・・・)

ジョミーは心の中で、何となく呟く。
早く終らせたい。殆どもう無意識にブルーの髪を指で梳きながら、ジョミーは、唯、そう思う様になっていた。
 

 

その時だ。ジョミーの目が何かを捕らえた。

『何だ・・・?。これは・・・・・・・?』

そう。遂に来たのだ。奇跡の一瞬。
絡み合うダーク・ブルーのラインと自分のコマのラインがその一瞬、頭の中で繋がった。いける!。


『来たああああああぁぁああーーーーーーーーーーーーーーーーー!あうあうあうああぁああぁぁーー!!!』


「ジョミー・・。ジョミー。落ち着いて」
自分の心の中だけで叫んだつもりだったが、思念は辺りに跳ね回っていた様だ。乱反射よろしく飛び散っている。
「正念場だね。頑張って」
『頑張るともさあーーーーーーーーーーーーーーーーー!』
もう思念だか、声を出してるのだかも分からない程にジョミーは気が高まった。
7日目にしてやっと訪れた好機。これを逃せば次、何時訪れるか分かったものではない。もう二度と無いかもしれない。それに何よりジョミーの気力がもう限界寸前だ。これが最後の戦いとなるだろう。恐らく、後、数手で勝負は決まる。

(絶対、逃がさん!)

追い込むのは此処からだ。一手でも打ち間違えればそれで終わりだ。これは最初で最後のチャンス。決してミスは許されない。時間が掛かろうが全てのパターンを読み尽くす。幸いにも殲滅戦により、コマ数が限られている。ダーク・ブルーの残りのコマは数コマだ。

しかし興奮のあまり上手く読めない。同じ所を何度も読み返す。
「はうあああぁぁーーー!。落ち着けーーー!僕ーーーーーー!」
「時間は幾ら掛かってもいいから。ゆっくり読みなさい」
ブルーはきっと一目で読み切ってるに違いない。本当に、自分がこんな風になれる日が来るんだろうか?。何がどうなったらそうなるのだ。想像も付かない。しかし、今はコイツだ。ジョミーは目の前のモニターを睨み付ける。

一手一手慎重に打つ。もう、ダーク・ブルーが訳の分からない事をしませんように!と、神にも祈る思いだ。
しかし、ここまで正確無比に淡々と打ち続けてきたダーク・ブルーは訳の分からない事などしはしなかった。
何度も何度も読んで確認した。全パターンを読んだが、結局、最初に目に入った時の流れで合っている様だった。これ以外に無い。大丈夫だ大丈夫と、念を込めながら、ジョミーは最後の一手になるだろうコマを指した。気力の全てを注ぎ込む思いでジョミーは指したが、次の瞬間、ダーク・ブルーはあっさりジョミーの勝利を表示した。

それは七日に渡る激闘の結末にしては実に呆気なかった。


 

 

ぽかん・・・・としてしまったジョミーだったが、その次の瞬間、頭を弄る手があった。
ブルーだ。
「良くやったね。凄いよジョミー!」
膝から身を起こし頭を撫でてくれた。ブルーに頭を撫でられるなんて初めてだ。
「そ・・・そんな。オセロに勝った位で」
完全に子ども扱いだとは思ったけど、顔がかあっと紅くなるのが止められない。単純に褒められて嬉しがっている自分が居た。でも、どうせならもっと違う事で褒められたいけど。

「いや。凄いよ君は。絶対的な力量差を物ともせず、決して諦めなかった」
あ・・・絶対に僕の力量では勝てないって事は、理解なさっててくれたんですね・・・と、ジョミーは遠い気分になった。
「果敢に立ち向かう不屈の闘志だ。強い子だね。ジョミー」

勿体無い程のソルジャーのお言葉だったが、それは違う・・・と、ジョミーは内心、動揺した。
諦めなかったんじゃない。ジョミーは、ブルーが諦めてくれるのを完全に諦めていただけなのだ。ブルーに諦めて貰うのを待つより、奇跡の一瞬を待つ方がまだ可能性があると、何故かジョミーは確信していた。
とても喜んでくれているブルーに、そんな本当の事は絶対言えない・・・。どうしよう、完全にブルーは自分に買い被った評価を下している。ジョミーは、軽く絶望的な気分になった。絶対、僕はこの先苦労するんだ。
でも、もう良いよ何でも。と、ジョミーはまだまだ人生始まったばかりだというのに、既に諦観の域だ。
そんなジョミーの心境を知ってか知らずか、ブルーはジョミーの手を引き寄せ、重ねた手を口元に近づけ、息を詰める様にこう言った。

「楽しかったよ、ジョミー。ありがとう」

そう言って、ふわりと微笑んだブルーの顔は嬉しそうで、何だか幸せそうだったけど、でもほんの少し、本当に微かだったけど何故か哀しそうな顔を見つけてしまい、それがとてもジョミーの中に印象として残った。忘れられない顔だった。

「どうしたの?。ブルー?」
「憶えていて」
「?。何を?」
「全部」

そう言ってブルーはコツンとジョミーに額を当てた。何時もはブルーは寝転がっている事が多いのでジョミーは彼を見下ろしてばかりだが、背は全然ブルーの方が高いのだ。珍しく、ブルーに間近に見下ろされてジョミーはドギマギする。
ブルーの額から、柔らかな思念が直接触れた。
途端に、ジョミーはフワフワした舞い上がる様な気分になったけど、ブルーが評価した不屈の意志で思い直す。


冗談じゃない。オセロ一つで、こんなにしんみりされては堪らない。やっぱりこの人、暇なんだ。ソルジャーばかりをやって来て遊んでないんだ。もっともっと楽しむんだ。絶対、そうする。とりあえずは、ブルーの散歩に支障が無い様、ブルーよりでかくなろう。今だって、サイオンもあるし抱きかかえて運ぶぐらいは遣り遂げるつもりだが、大きい方が抱え易い。

そんな決意も新たに、ジョミーは宣言した。
「ブルー!。僕、絶対大きくなるから!」
「え?」
ブルーはきょとんとした顔になった。それはそうだ。何の事やら分からないだろう。いいんだ。決めたから。



「それは、とても楽しみだな」
そう言ってブルーは、今度こそ本当に愉快そうに笑った。






--エピローグに続きます--

 

拍手

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2009/08/04/ [Tue]
こめんと [ 2 ]
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COMMENT
あー!何のきなしに覗いたらテラでしかもオセロでした!
6話しか見てないので、落ちで吹いた(笑)

こちらの絵logが好きでちょこちょこ遊びに来てました。
真面目に日記も掘ってみます!
【2009/08/0709:43】||きくや#56a4cfdd9b[ EDIT ]
Re:無題
そうです、オセロなんです。何だか申し訳ないです!。
logって、あの落書き群ですか?。ありがとうごさいます!。当時、必死に描いてたので嬉しいです。

では、コメントありがとうごさいました!。
【2009/08/09 03:47】
こんばんは。
「機械」第6話、読みました。
ぶるーさんの言動にやっぱり深読みしてしんみりしてしまいましたが・・・が、ジョミさんの言葉に心がホンワカしてしまいましたv

文体のリズムがとても心地良いですねvほかにもテキストを拝見したい・・・とわがままな思いを抱いております・・・。スルーしてくださってかまいません!!
【2009/08/0900:04】||まいまい#8d3e5aeb23[ EDIT ]
Re:第6話
こんばんは。
コメントありがとうごさいます。
後、一話残ってるので、なんとかそっちを片付けられる様、頑張ります・・!。

では、ありがとうごさいました!。
【2009/08/09 03:52】
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